【お知らせ】英国政府、人権デュー・ディリジェンスの義務化に向けた立法方針を正式表明(2026年11月4日)
大企業を対象とする新たな人権DD制度と強制労働製品への規制を導入の方向。
英国政府は2026年11月4日、Responsible Business Conduct(責任ある企業行動)に関する政策見直しを踏まえた対応方針を公表し、大企業を対象とする人権デュー・ディリジェンス(Human Rights Due Diligence:HRDD)の義務化に向けて立法化を進める方針を正式に表明しました。今回の発表は、現行の枠組みが自主的な取組みや情報開示に過度に依存しているとの政府の認識を踏まえ、企業に実質的な人権DDを義務づける法的枠組みへと改める方針を示すものです。また、強制労働によって製造された製品をグレートブリテン市場から撤去するための権限も、新制度の枠組みの中に設ける方針が示されました。
1. 新たな人権DD制度の概要
英国政府は、英国企業および英国で事業を行う外国企業のうち、大規模な企業を対象として、事業活動およびサプライチェーンにおける人権侵害・労働搾取のリスクを特定、評価し、対処することを義務づける制度の導入を予定しています。政府が発表した対象企業の基準案は以下のとおりです。なお、これは英国現代奴隷法第54条に基づく声明文公表義務の対象企業の基準とは異なります。
英国の事業者:グローバル売上高が3億5,000万ポンドを超える企業
外国の事業者:英国国内での売上高が3億5,000万ポンドを超える企業
制度は、国連「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」およびOECD「責任ある企業行動に関するガイドライン」などの国際基準に沿った、リスクベースのアプローチを採用するとされています。
上記の売上高基準は政府が公表した制度案であり、法案の策定・審議を経て最終的な適用範囲が確定することになります。また、制度の適用範囲は、サービスについては英国全土、物品についてはグレートブリテン(イングランド、スコットランド、ウェールズ)とされています。
2. 強制労働製品に対する市場撤去措置
英国政府は、新たな人権DD制度の下で規制当局に調査権限を付与し、強制労働によって製造された製品を市場に流通させている疑いのある企業を調査できるようにする方針です。そのうえで、企業が必要なデュー・ディリジェンス義務を履行しておらず、かつ強制労働が確認された場合には、当該製品をグレートブリテン市場から撤去するよう指示できる仕組みを導入する方針です。
3. EUの規制との関係
今回の英国政府の発表は、EUの企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)および強制労働製品規則(EU Forced Labour Regulation)と関連する動きです。ただし、制度の構成には違いがあります。
EUでは、人権・環境DDを義務づけるCSDDDと、強制労働によって生産された製品のEU市場への投入・提供およびEUからの輸出を禁止するForced Labour Regulationが、それぞれ独立した法令として設けられています。
一方、英国では、人権DDの義務化と、強制労働製品を市場から撤去するための権限を、新たな制度的枠組みの中に組み込む方針が示されています。
なお、北アイルランドについては、Windsor Frameworkに基づきEU Forced Labour Regulationを適用することが発表されています。
現時点で英国政府が公表している制度案では、人権DDが対象として示されており、環境DDについては明確な方針が示されていません。この点は、人権DDと環境DDの双方を対象とするEUのCSDDDとは異なります。今後の法案の策定・審議を通じて、対象範囲がどのように定められるかが注目されます。
4. 英国現代奴隷法との関係
英国現代奴隷法(Modern Slavery Act 2015)第54条に基づく声明文の作成・公表義務は、新たな人権DD制度とは別に引き続き存在します。
現代奴隷法第54条は、一定規模以上の企業に対し、自社の事業活動およびサプライチェーンにおける奴隷制・人身取引への対応について、年次声明を公表することを求めています。一方で、企業に実質的な人権DDの実施を直接義務づけるものではなく、履行を確保するための執行・制裁の仕組みが弱いとの批判もありました。新制度は、現代奴隷法第54条に基づく情報開示義務とは別に、企業に実質的な人権DDを義務づける新たな法的枠組みとして導入される方向です。
5. 日本企業への影響と今後の動向
今回の制度案では、外国企業についても英国国内の売上高を基準に対象企業を定める方針が示されています。そのため、英国国内での売上高が基準を満たす日本企業は、今後の法制化を経て、直接的な規制対象となる可能性があります。また、英国の売上高基準とEU CSDDDの適用基準は異なるため、EU CSDDDの対象とならない企業であっても、英国の新制度の対象となる可能性があります。
現時点では法案は成立しておらず、具体的な義務の範囲、執行体制、制裁措置等については今後の発表を待つ必要があります。英国政府は、今後、企業やその他のステークホルダーとの協議を通じて制度の詳細を設計し、議会日程が許す限り速やかに立法化を進めるとしています。
また、英国政府は、新制度について、EU Forced Labour Regulationの北アイルランドへの適用開始時期である2027年12月と同時期に施行することを目指しています。
企業にとっては、法制化の動向を注視するとともに、UNGPsやOECDガイドラインに沿った人権DDの実施状況を改めて確認し、自社およびサプライチェーンにおける人権リスクへの対応を進めることが重要となります。
参考:
UK Parliament, Written Ministerial Statement, Responsible Business Conduct, 4 November 2026 (HCWS454)
UK Parliament, Written Ministerial Statement, Schedule 6B Northern Ireland Act 1998: Windsor Framework decisions, 4 November 2026 (HCWS455)
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